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浮世絵(日本の版画)

2018.07.24

浮世絵(日本の版画)
日本古来の絵画で世界的にも人気の高い浮世絵。人物や風景などを木版に彫り、彩色して紙に摺るという版画のような技法で制作され、絵師、彫師、摺師の三役が組み合わさることでできる素晴らしい作品は海外の著名な画家たちにも大いに影響を与えました。今回はそんな浮世絵について紹介します。

浮世絵とは?定義は?

日本ならではの絵画と言われる浮世絵。もともとは江戸時代に成立した絵画のジャンルで、当時の風俗を描くものとして広まっていきました。江戸時代に人気のあった花魁や歌舞伎役者などの人物が描かれているものがイメージされますが、富士山や荒々しい波の姿を描いた海の様子などといった風景画も浮世絵のジャンルとして存在します。

版画のイメージが強い浮世絵ですが大きく分けると、版本の挿絵、一枚摺の木版画、肉筆浮世絵の3種類に分けられます。1600年代初期のころまでは肉筆画のみでしたが、木版画の技術で一気に広まります。絵画は各地の有力者や大名しか見られないものと思われていた中で、木版画で摺られた浮世絵は大衆文化として根付いていきました。

浮世絵ならではの特徴と言えるのがその図柄。人物や景色の特徴をシンプルかつはっきりとした図柄に起こし、構図はとても大胆。また、影という表現が一切ないことが挙げられます。影がない分、浮世絵はどこかスッキリとした印象を与えるだけでなく、いたってシンプルな絵柄でも力強さや線の強さを感じさせ、見る者を唸らせます。

浮世絵の歴史

浮世絵の歴史
17世紀、戦乱の世が終わり平和な時代が訪れた江戸時代。かつて文化を作っていた京都ではなく、江戸の庶民たちによる町人文化が広まっていきました。

それまで芸術と言えば特権階級・支配階級のもの。浮世絵のルーツにもなった当時の絵画はほとんどが肉筆で描かれていたため、町人たちの目に触れることはありませんでした。後に浮世絵最初の絵師となる菱川師宣が代表作の見返り美人図を描きましたが、これも丹念に手書きした肉筆でのもの。庶民の手には届かない代物でした。

ところが、菱川師宣は肉筆だけでなく、この頃から徐々に浸透していった木版画も手掛け、挿絵や名所絵、枕絵などを描いていきました。中でも得意としていたのが当時の庶民の憧れの地となっていた遊里と芝居町の浮世絵。安価な価格で販売されている木版画で憧れの街並みが見られるということで次第に人気を集めていきます。

菱川師宣の活動がキッカケとなり、各地で浮世絵師が誕生します。中でも奥村政信は独学で絵を学んだ異色の存在。主に美人画や役者絵を描いていた彼の代表作は1745年の「芝居狂言舞台顔見せ大浮絵」。横46.8cm×縦68cmという浮世絵では最大級の大きさを誇るこの絵は、狂言舞台のワンシーンを描いたもの。役者だけでなく芝居小屋の内部全体を描いた臨場感で話題になりました。奥村政信はこの絵を描く際に当時、西洋画で用いられることが多かった遠近法を用いるなどアイデアに富んだ絵師でした。

このころから木版画は単色摺の墨摺絵だけでなく、赤い顔料であとから着色した紅絵や漆を塗って光沢を出した漆絵、そして紅絵を緑色など複数の色に合わせて版摺りした紅摺絵らが登場します。様々な色が付くことで芸術品としてより価値を高めていった浮世絵ですが、1765年ごろから鮮やかな多色刷りの東錦絵という技法が編み出され、現在につながる浮世絵の文化が開花していきました。そのころに登場したのが鈴木春信です。

錦絵の生みの親とも言える鈴木春信は、錦絵が持つカラフルさを生かして美人画でその才能を発揮。代表作である「笠森お仙」。茶屋の看板娘をモチーフに描いた作品ですが、そのあまりの美しさに鈴木春信がモデルにした娘を目当てに茶屋には人が殺到したと言われています。浮世絵は現在でいう広告媒体のようなものだったことがわかります。

美人画で名を成した作者と言えば、鳥居清長もその一人。鳥居清長が描く美人画はとにかく華奢な女性が多く、鈴木春信が得意としていた少女とは一線を画していました。江戸で働く女性を生き生きと描いたことで支持を集めていきました。

18世紀の後半からの浮世絵界を支えたのは武士出身の異色の存在である長文斎栄之。鳥居清長を師として絵を学んだ長文斎栄之は師匠以上にスレンダーな女性を描き、いつしか「栄之美人」というジャンルを確立するほどでした。そしてこの流れに乗って登場したのが喜多川歌麿です。

浮世絵の歴史2 *イメージイラスト/PIXTA

当時は鳴かず飛ばずの絵師だった喜多川歌麿ですが、蔦屋重三郎に見いだされると、「大首絵」という上半身をクローズアップした手法を開拓。当時の美人画は全身を描くものというのが常識でしたが、喜多川歌麿が描いた美人画はすべてこの大首絵で描かれ、人気を博していきました。

ところが喜多川歌麿がモデルにした女性たちは無名の存在だったにも関わらず、浮世絵になったことをキッカケにその存在が知られるようになり、これを由々しき問題と考えた江戸幕府は、再三喜多川歌麿に制限をかけました。しかし、喜多川歌麿の浮世絵の人気は衰えるどころかますます盛んになり、町人たちから絶大な支持を得ていました。

そして1804年に発表した「太閤五妻洛東遊観之図」が江戸幕府の逆鱗に触れ、喜多川歌麿は手鎖の刑に処せられ2年後にこの世を去ってしまいます。

喜多川歌麿の死後、浮世絵界は美人画よりも役者絵の方が人気を集めるようになり、東洲斎写楽が登場します。当時の歌舞伎役者の表情を前面に打ち出してデフォルメして表現するという斬新な技法が話題となり、キレイな女性の姿ばかりが描かれていた浮世絵界に革命を起こしました。

次にブームになったのは風景画。美人画や役者絵とは違い、風景画は浮世絵では傍流という位置づけでした。それを変えたのが自由気ままな作風の葛飾北斎でした。

浮世絵の歴史3 *イメージイラスト/PIXTA

18歳で絵師となった北斎でしたが、風景画をメインで描いていたことが災いしてか、評価されたのは70歳を過ぎてから。代表作の「冨嶽三十六景」が刊行されたのは1831年~1834年で、北斎はすでに72歳。遠近法が活用されただけでなく、当時流行していた「ベロ藍」と呼ばれる青い塗料を用いて摺ったことでも話題となりました。富嶽三十六景のヒットがキッカケとなり、風景画の作者として歌川広重らも台頭しました。

そしてこれらの作品は輸出され世界の芸術家の知るところとなりました。例えばゴッホは歌川広重の代表作・名所江戸百景の「大はし あたけの夕立」を模写した作品を発表し、音楽家であるドビュッシーは富嶽三十六景の神奈川沖浪裏に影響を受けて「海」を作曲。スコアの表紙にこの絵が用いられたことは有名です。

明治時代になっても浮世絵は健在で、江戸時代の末期に魚や動物を独自のセンスで描いた歌川国芳の流れをくむ弟子たちの河鍋暁斎、月岡芳年といった優秀な絵師が現れました。その後も脈々と浮世絵の伝統は受け継がれ、今日に至ります。

浮世絵を見る時はこれを見ろ!浮世絵を楽しむコツ

浮世絵を見る時はこれを見ろ!浮世絵を楽しむコツ
「浮世絵」のジャンルは様々。題材によって絵の雰囲気が変わることもしばしばあります。

浮世絵の題材は主に女性を描いた「美人画」、当時人気を博していた歌舞伎役者を描いたブロマイド風の「役者絵」、旅行気分に浸れる「風景画」が主なところで、他にも「芝居絵」「春画」「風物絵」など、全部で100種類以上の題材の作品が存在しています。

浮世絵の中でも比較的ビギナー向けなのが美人画。これは当時の看板娘や花魁など、時代ごとの美人が描かれていますが、時代を追うごとに美人の変遷が分かるという楽しみがあります。髪型や体型、そして顔の様子やたたずまいなどが時代ごとによって全く変わります。

例えば鈴木春信は比較的少女をモチーフにした作品が多いですが、鳥居清長は江戸で働く女性にスポットを当てたため、とにかくスレンダーな女性が題材になることがほとんど。その鳥居清長の弟子にあたる長文斎栄之に至ってはほとんどの女性が8頭身で描かれるという師匠譲りの作風を見せ、いつしか「栄之美人」と呼ばれるようになっていきました。

比較するという点では風景画も面白いものがあります。浮世絵と現在の街を比べてみると浅草寺や日本橋は現在とさほど変わりがないかもしれませんが、約200年前の赤坂は桐畑になっていたり、江戸の街のどこからでも富士山が見えたりしたことが浮世絵からわかると思います。こんな発見も面白いポイントです。

また、ブロマイドの性格を持っていた役者絵は現在の歌舞伎役者たちと比較してみるのがオススメ。例えば市川團十郎は代々目が大きく、松本幸四郎は昔から彫りが深い顔立ちであることがわかると思います。浮世絵鑑賞をした後に歌舞伎を見に行くと楽しさが増えますね。

浮世猫?浮世絵によく出てくる猫の意味は?

浮世猫?浮世絵によく出てくる猫の意味は?
様々な題材がある浮世絵ですが、その中でもよく描かれている動物が猫。中でも江戸時代末期の浮世絵師である歌川国芳は無類の猫好きとして知られ、常に数匹の猫と生活をしていた歌川国芳は常に懐に猫を抱いて作画していたとも言われています。そうした猫への愛情があふれる作品として、鼠よけの猫(1830年頃)、猫のけいこ(1841年頃)などが知られています。

歌川国芳が活躍したこの時期、江戸では空前の猫ブーム。歌川国芳がこの頃に猫の作品を連発したように、この頃は猫を飼っている家が多く、町人たちにとって猫がとても身近な存在でした。

浮世絵に描かれた猫の構図を見ると、隅で寝ていたり、遊んでいたりする日常の描写のみならず「猫のけいこ」のように猫を人間に見立てたような作品も多く見られます。その中でも個性を放っているのが、歌川国芳が1841年~1843年頃に発表した「猫の当て字」。猫をうまく配置させてタテの文字を作り、ひらがなで猫の好物である魚の名前を現しています。こうした遊び心のある作品も猫の登場する浮世絵には多く見られるので、美術館などでチェックしてみましょう。

浮世絵はここで見よう!日本で見られる浮世絵の美術館

浮世絵はここで見よう!日本で見られる浮世絵の美術館
江戸時代の町人文化を担った浮世絵ですが、現在でも多くの作品が美術館などで見ることができます。ここでは日本で浮世絵鑑賞をするには欠かせない5つの施設を紹介します。

○日本浮世絵博物館
その名の通り、日本最大級の浮世絵を展示している博物館。その点数は肉筆浮世絵1000点を含めておよそ10万点。江戸時代当時の松本の豪商であった酒井家が集めた「酒井コレクション」が中心で、浮世絵のルーツを作ったとも言える菱川師宣はもちろん、奥村政信、鈴木春信などの作品を多数所蔵しています。

また、江戸時代後期から明治時代に当たる19世紀の浮世絵に関しても世界最大級の規模を誇り、歌川広重、歌川国芳らの作品らも見られるなど、創生期から現在に至るまでの浮世絵の歴史を振り返るには最適の場所です。

「日本浮世絵博物館」
●長野県松本市大字島立字新切2206-1
●0263-47-4440
●10:00-17:00
●月曜、年末年始休み
http://www.japan-ukiyoe-museum.com/


○岡田美術館
ここには浮世絵のベースとなった安土桃山時代の風俗画から浮世絵まで展示されているので、浮世絵の成り立ちを追うことができます。浮世絵絵師の主なラインナップは喜多川歌麿や葛飾北斎をはじめ多彩な顔ぶれがそろっています。

また、日本のみならず中国や東洋の焼き物、青銅器も展示されているので一緒に見比べられるのもポイントです。

「岡田美術館」
●神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1
●0460-87-3931
●9:00-17:00
●年末年始休み
http://www.okada-museum.com/


○すみだ北斎美術館

浮世絵はここで見よう!日本で見られる浮世絵の美術館2
2016年にオープンしたばかりの葛飾北斎の作品にフィーチャーした美術館。この美術館のある墨田区亀沢はもともと葛飾北斎が生まれた場所であり、再三引越ししたにもかかわらず、生涯のほとんどをこの街で過ごしました。

作品は葛飾北斎の代表作である富嶽三十六景の「神奈川沖浪裏」や葛飾北斎のコレクターとして知られているピーター・モースのコレクションも多数展示されています。美術館内には葛飾北斎を中心とした浮世絵の図書資料を収集した図書室も併設。浮世絵の歴史を深く知るには最適です。

「すみだ北斎美術館」
●東京都墨田区亀沢2-7-2
●03-6658-8931
※ハローダイヤル:03-5777-8600
●9:30-17:30
●月曜、年末年始休み
http://hokusai-museum.jp/

世界でも?日本以外で見られる浮世絵

かつてゴッホやモネがその影響を受けたように、浮世絵は海外でも高く評価され、日本から輸出された作品も世界各国に多くあります。そんな日本の浮世絵が見られる海外の美術館を紹介します。

○大英博物館
古今東西の美術品や書籍が800万点以上も収蔵されているという世界最大の博物館。世界各国の美術作品が多く展示されている中には日本の浮世絵もあり、美人画や役者絵を中心に多数揃っています。

「大英博物館」
●Great Russell Street, London, WC1B 3DG
●10:00-17:30
●12/24~26、1/1休み
http://www.britishmuseum.org/


○シカゴ美術館
アメリカの三大美術館のひとつと言われているシカゴ美術館。ゴッホの代表作である「自画像」やモネの「睡蓮」らの作品が展示されていることで有名ですが、浮世絵も多数展示されていて、アメリカで浮世絵を見るならここが一番という評判を得ています。

葛飾北斎、歌川豊春、喜多川歌麿らの大物をはじめ、風景画を中心に集めたラインナップが魅力。日本古来の景色を知るのには最適と言えるでしょう。

「シカゴ美術館」
●111 S Michigan Ave, Chicago, IL 60603
●10:30-17:00 ※木曜10:30-20:00
●1/1、11/22、12/25休み
http://www.artic.edu/


○ホノルル美術館
常夏の楽園として、リゾート地としても人気の高いハワイ・ホノルル。約5万点の美術品を所蔵している美術館ですが、ここにも日本の浮世絵が揃っています。

作者は歌川広重をはじめとした江戸時代後期の作者のものが多く、こちらも風景画が多く揃えられています。観光客向けのツアーも開催されているので、浮世絵の知識がなくても楽しめることでしょう。

「ホノルル美術館」
●900 S Beretania St, Honolulu, HI 96814
●10:00-16:30
●月曜休み
http://honolulumuseum.org/

浮世絵のまとめ

江戸時代と時を同じくして栄え、庶民に親しまれてきた浮世絵。その奥深さや美しさは今もなお輝きを放ち、決して色あせることはありません。日本に訪れた際は浮世絵を鑑賞して、日本ならではの文化に触れてみると日本への観光がより有意義なものになるでしょう。

※2018年6月8日現在の情報です。詳細は直接お問い合わせの上おでかけ下さい。

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